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文楽太棹 鶴澤清治

芸の神髄シリーズ 第1回「文楽太棹 鶴澤清治」

これは昨日、国立劇場・大劇場で公演されたものです。文楽の三味線遣い、鶴澤清治さんを中心に据え、太棹の魅力をたっぷりと味わえる舞台を企画したもの。中身はものすごく豪華なものでした。その舞台に、昨日行って参りました。

…本当のところを言うと、前日までチケットを取っていたことを忘れ、慌てて劇場へ行ったのですけどね(苦笑)席を確保する時には、大騒ぎしたというのに;

なにはともあれ、舞台を目の当たりにした感想を一言で言うと、うっとり酔ってしまった…としか言いようがありません。あぁ、聴いてよかった!

舞台の内容はと言いますと、

素浄瑠璃「壇浦兜軍記 阿古屋琴責の段」
 竹本住大夫・竹本綱大夫
 鶴澤清治・(ツレ)野澤錦糸・(三曲)鶴澤清二郎

創作浄瑠璃「弥七の死」
 原作・山川静夫 構成作曲・鶴澤清治
 豊竹咲大夫・鶴澤清治

文楽ごのみ
「三番叟・酒屋・野崎村」
 構成編曲・鶴澤清治
 豊竹嶋大夫・鶴澤清治他10名
 吉田簑助・桐竹勘十郎・吉田簑紫郎・吉田簑次

ということで、ちょっと文楽をかじった人なら涎が出る演目&キャスティングではないかと思います。かく言う私も、飛びつきましたもん、コレには。

素浄瑠璃で阿古屋。三味線の魅力を十分聴かせて貰えるだけでなく、浄瑠璃の語りまで堪能出来るベスト演目。しかも語りは、住大夫さんと綱大夫さん。これ以上はない語りです。普段は独りで語る一段を、掛け合いのように二人で語る。しかも、太夫は切り場語りのお二人。このことを知るだけでうっとりです(笑)

1時間以上の素浄瑠璃。舞台には人形の無い、悪く言えば誤魔化しの効かない舞台です。恋人・景清の行方を問われ、拷問にかけられる傾城阿古屋。典雅な拷問を仕掛ける重忠。景清の行方を知らないと答える阿古屋に、「嘘を吐いていないなら、琴、三味線、胡弓の三曲を弾きこなせるだろう。」と、三曲を嘘発見器にするその展開にもゾクゾクしますが、一番の聴き所はやはりその三曲の演奏場面。純粋に音楽を聴く楽しみが、この阿古屋にはあるので、私もすっごく好きな一段です。この舞台で、琴、三味線、胡弓を演奏するのは鶴澤清二郎さん。清治さんとツレびきの錦糸さんとのピンと張った演奏は、こちらまで姿勢を正すような緊張感のある音でした。うっとりと言うより、目がランランって感じ。終わった時には、ホゥ~っと息をついちゃいました。あぁ、よかった。いつもと違う掛け合い的語りにはちょっと違和感を感じましたが、住大夫さんの声が深く染み通るような心地。声の好みが綱大夫さんより住大夫さんなので、よりそう感じたのかも。しかし、この二人揃って同じ段を聴ける機会など、これを逃したら二度と無いですから、貴重な一晩だったってことですね。はぁ~、満足。

創作浄瑠璃は、現代詞の語りで始まり度肝を抜かれましたが、絶妙な三味線と効果的な照明がすごく斬新でした。残念ながら、この竹澤弥七という三味線弾きのことを私はよく知らないので、あまり身を入れて聴くことが出来なかったのが残念ですかな。面白い趣向だとは思いましたが、楽しめたかと聞かれると楽しめたとは言えないなぁ…。

ラストの文楽ごのみは、その名の通りいいとこ取りの演目。

毎年、お正月には欠かせない三番叟。これを10名の三味線弾きが豪快に、絢爛に弾ききりました。三味線だけの音楽に編曲されていますが、これがまた華やかな三番叟を更に引き立てていて、二手に分かれて重ねられる三味線がこれまた見事。軽快な流れなので、ついつい手がリズムを打ってましたね~(笑)ユーモラスな人形の姿が目に映るかの如く。楽しい三番叟でした。

酒屋は「艶姿女舞衣」の酒屋の段。有名なお園のくどき「今頃は半七様どこにどうしてござらうぞ。」を魅せるための舞台設えで、突然語りが始まり、お園が動く、予想も付かないスタート。でも、嶋大夫さんの語りにすぐさまうっとり。もうもう、これを聴くために来たと言っても過言ではないですから!お園の、女心をせつせつと語りあげる嶋大夫さん。酒屋=嶋大夫と連想するくらい、好きな組み合わせなので、この最中は頭がポーッとしてたと思います。その上、簑助さんのお園ですから。珍しく人形にまで目が行きました。はぁ~、ジッとお園を見つめるなんて私にしてはかなり珍しいです。目が釘付けでしたから。ほんのさわりだけなのがホントに惜しいです。これなら一段まるっと語って欲しかった。簑助さんのお園ももっと見たかった。このメンバーで本公演してほしいくらいです。

最後は「新版歌祭文」より野崎村の段、最後の場面です。出家したおみつ、駕籠に乗った久作、船に乗ったお染母子の退場の場面。悲しい引き際ながらも、船頭の見せ場(?)でもある聞き応えのある三味線の見せ場でもあります。これをまた、語りを嶋大夫さん、そして清治さんを頭に10棹の三味線。こんな豪華な舞台があるのだろうか、と思うほどの野崎村でした。嶋大夫さんと清治さんの座る台が前に、後ろにずらっと並んだ三味線弾きさん。そして豪快かつ軽快な三味の音。これをバックにノリノリで語る嶋大夫さん。いやホント、端から見てもノリノリと調子よく語っているのが分かりました。それくらいテンポよい舞台で、聴く側もノリノリ?(笑)感情が沸き立つほど、と言えばいいのでしょうか。よかった、よかった、よかったと叫びだしたかったです。

今回の席は、2階席後方。しかも一番端とあまりよい席ではなかったのですよ。なので、最初は音の響きが悪いだろうなぁ、としょんぼりしてたのですが、この大劇場はそれでも悪く聞こえなかったので感心しちゃいました。いつもの文楽と違って、舞台中央に太夫、三味線がいたのもよかったと思います。

そして、人形が無いぶんだけ、いつも以上に耳に集中出来、純粋に音を楽しむことが出来ました。席がわるいのなんのと言う暇もない位、楽しませて頂きましたね。満腹、ご馳走様です。

そして、大劇場という場所を使うだけあって、舞台変換は回り舞台を使った大がかりなもの。10人並んだ三味線弾きが台の上に乗ったまま裏へ帰り、同時に次の酒屋の舞台が現れた時には客席からほぅという声が聞こえたほど。私もビックリ。目がまん丸。これも常にない演出だったのかもね(笑)

前評判の高かったこの舞台。観客も着物率も高いし、年齢層も高かった。しかも、男性客も多かったのが目立ちました。結構関係者も来ていた模様。そういう人たちの顔の分からない私にはサッパリでしたが、ロビーでそちら関係の話題を話している男性客がちらほらしてたので、多分そういう人たちなんだろうな、とは思いましたが。あと、舞妓さんだろうな、と思える姿もあったり、なかなか目の保養にもなりましたよ。そういう意味でも楽しかったです。

一晩たった今でも、昨夜の興奮がまだ残っている感じ。頭のどこかで三味線が鳴っています。またごそごそ昔のテープを漁ろうかな。

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